大判例

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大阪高等裁判所 昭和41年(う)1078号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕所論の要旨は、本件における被告人の過失の程度は刑法二一一条後段の重大なる過失には該当しないのにかかわらず、原判決が被告人に対し重過失傷害罪の成立を認定し、右法条を適用したのは、事実を誤認しひいて法令の適用を誤つたものであるというのである。

よつて<中略>案ずるに、被告人が本件事故の際氷約七〇キログラムを後部荷台に積載した足踏二輪自転車を約一五キロメートルで運転し信号機の表示に従つて交差点を西から東に向つて進行していたこと、被害者が交差点西側の横断歩道を北から南に向つて横断しその際右方(西方)を確認せず、また信号機の表示に従わなかつたこと、ならびに被害者は被告人の自転車の左側後部附近に接触した事実を原判決が認定していることは所論のとおりである。

ところで、被告人は信号機の表示に従つて東進すべく交差点西側にある南北の前記横断歩道の手前にさしかかつた際稍斜め左前方約三、一メートルの地点の横断歩道上を北から南に渡ろうとしていた被害者を発見したわけであるが、被告人は原審公判廷でその際被害者は東方を見ていたが、被害者の対面する信号機は赤色の表示であり被害者は左右を見て被告人の自転車に注意してくれるものと思つてそのまま進行を続けた旨供述しており、また捜査段階において被告人は被害者より先きにその前を通過できると思つて進行を続けたと供述していて、前後多少の相違があるが、被害者の対面信号が止まれの表示であるから、被害者が、左(東方)を見た後さらに右方(西方)へも注視を転じて被告人の自転車に気付いてこれを避けてくれるであろうと期待したとしても、あるいはまた被告人が被害者の前を安全に通過しうるものと予想し進行を続けたとしても、被告人が警音機の操作により被害者の注意を喚起しその避譲を促がす処置をしなかつた点において過失があるといわなければならない。(原判決は一時停止、徐行または進路の変更を要するといつているが、被告人の自転車に前記のような重量物を積載していたから、急停車、進路の変更は危険であり、徐行も被害者との間隔が三米余に過ぎなかつたことに想到すると、このような措置を期待しうるか否かは甚だ疑わしい)

然しながら前記のような状況下におけるこの程度の過失は注意義務違反の程度が著しい場合に該当するとは解しがたくむしろ軽過失の責任が生ずるに過ぎないと考えるのが相当である。

従つて原判決が被告人の過失と認めて刑法二一一条後段を適用したのは事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤つたものというべく、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

ところで本件について被害者笠松フジその他の告訴権者の告訴がないわけであるから、軽過失として有罪の認定をすることは不可能である。従つて本件公訴は起訴条件の欠による不適法なものとしてこれを棄却すべきものである。(江上芳雄 木本繁 山田忠治)

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